東北芸術工科大学伝統館 薪能
6月13日(月)
【開催にあたり】
 七百年の歴史を持つ能は、「ユネスコ世界文化遺産」に指定されるなど、日本だけでなく、世界的な舞台芸術のひとつと されています。しかし、実際には、国内でも能に親しむ風潮には至っていません。本学に水上能楽堂「伝統館」が出来ました ことを機に、より多くの県民の皆さまに幽玄なる能楽の世界に親しんでいただき、東アジアに生きる日本人としての社会的・ 文化的アイデンティティを確認する機会とさせていただければ幸いです。
          東北芸術工科大学
            学長 小沢 明


【羽衣】のあらすじ
 各地に流布している「白鳥処女説話」を素材に創られている馴染み深い内容の作品です。富士の景色が映える 風光明媚な浜辺、三保の松原を舞台に、天女を登場させる美しい能です。
 まず、漁夫たちの登場によって、春の浜辺ののどけさが描かれます。きらきら光る沖には、釣り人の小船が何艘も 見えます。
 漁夫たちが浜にあがると、天からは花が降り音楽か聞こえ、妙なる香りがするので、不思議に思いあたりを見回すと、 松に美しい衣が掛かっています。漁夫の白龍はその衣を持ちかえって家の宝にしようとします。するとその衣は私の ものだから持ち去らないように、という声がして、美しい女が現れます。
 その衣は天人の羽衣でたやすく人間に与えられない、と聞いた白龍は、いよいよ衣が欲しくなって返そうとしません。 羽衣がなくては天に帰ることのできない天人は悲しみにくれ、雁が帰っていく空を見上げて涙するのです。
 あまりに痛ましい天人の姿に心を動かされた白龍は、天人の舞楽の舞を見せてくれることと引き換えに、羽衣を返すと 約束します。
 やがて羽衣を見にまとった天人は、優美な舞を舞いながら空の高みへと春霞に紛れ消えてゆきます。
 三保の松原から愛鷹山、富士の山と山々のかなたへ繰り広げる天女の華麗な舞を楽しんでいただきましょう。


【蝸牛】のあらすじ
 「かぎゅう」と音読していますが、「かたつむり」が主題の狂言です。
 何時の頃か、かたつむりを長生きの薬として食べる地方があったのかもしれません。この狂言は、祖父に益々長生きを して欲しいと思った主人の言い付けで、薮へかたつむりを探しにやってきた太郎冠者が、当のかたつむりをまだ見たことも なかったため生じるナンセンスな物語です。
 山伏は狂言の代表的な人物の一人で、虚勢を張る特権階級の一人として常に笑われる存在ですが、この「蝸牛」では笑いを 引き出す役回りで、笑われるのはむしろ太郎冠者の方になっています。一種独特のメルヘンチックな楽しい雰囲気を醸し出す、 名作狂言の一つです。


【石橋】のあらすじ
   半能(はんのう)とは一曲の後半のみを演じることを言います。従って、寂昭法師(出家した大江定基)が中国の 清涼山にやってきて石橋を渡ろうとすることろに、不思議な童子が現れるくだりの前場は省略し、石橋に獅子が 出現する豪華絢燗な後半の場面を演じます。
 千丈あまりの谷にわずか一尺ほどの幅で三丈の長さの石の橋、向いは文殊菩薩の浄土。獅子は想像上の動物で、 文殊菩薩の乗っている霊獣。その獅子が、百花の王である牡丹の花が咲き誇るなかに戯れ遊ぶ様を舞います。普通は 赤獅子一人あるいは白獅子赤獅子各一人の二人で舞うのですが、本日は赤・白それぞれ二人出て、いっそう豪華で 趣きの深いものになります。