【安宅 勧進帳 滝流】
平家を西海へと沈めた義経は、兄頼朝に疑いをかけられ、山伏に身をやつして都を落ちのびる。主従は一路奥州を目指すが、頼朝の命により新たな関所が設けられ、通る山伏を吟味していた。
義経(子方)一行が安宅関に差し掛かると、関守の冨樫(ワキ)が一行を見咎める。弁慶(シテ)は奈良東大寺の大仏再建のための勧進であると応え、持ち合わせの巻物を勧進帳と偽って高らかに読上げる。冨樫は一行を通すが、荷を負う剛力が怪しいと再び留める。弁慶は、はやる一行を制しつつ富樫に迫り、強引に押し通ってしまう。 関をあとにし一息つくところへ富樫が追いかけてきて、先般の非礼に詫び酒を勧める。
一行の緊張する中、弁慶は何気ない風を装いつつ盃を受け、更に勇壮な舞を舞う隙に一行は陸奥へと下っていく。
歌舞伎「勧進帳」の元となった演目です。舞台を埋め尽くす山伏一行と弁慶、富樫の切迫した心理戦が見所です。
【卒都婆小町 一度之次第】
高野山の僧(ワキ)が都へ上る途上、朽木の卒塔婆に腰を降ろして休む乞食の老女(シテ)に遭う。僧は見咎めて教え諭すが、老女は僧の言うことに逆らい、問答を仕掛けて遂には僧を論破してしまう。智識に驚いた僧は平伏し、老女は戯れの歌を詠んで返す。
僧が名を尋ねると、老女はかつて美貌と才知で名を知られた小野小町であった。いまは百歳の老女に老いて、杖にすがって歩く乞食と落ちぶれてはいるが、なおも才気は衰えず昔日のままである。
突如、小町に憑き物が憑いて狂乱し、僧に物乞いをする。それはかつて小町に恋焦がれ、百夜通いをした深草少将の霊であった。小町は少将の姿となり百夜通いの有様を見せるが、やがて正気にかえると後世を願って仏を頼み、静かに合掌する。
衰える容姿と不変の知性の鮮やかな対照。そして仏に縋る人間の性を表現します。
【船弁慶 重キ前後之替】
平家を滅ぼした義経は、兄頼朝の疑いを晴らすべく都を落ちて西国へ下り、摂津の国尼崎、大物浦に着く。弁慶(ワキ)は一行の中に静御前(前シテ)がいるのは良くないと義経(子方)に言上し、自ら使者となって静にここで別れるように告げる。静は別離の酒宴に涙ながら舞を舞い一行の行末を寿いで去る。
船の支度ができ荒波へと一行は船出する。船頭(アイ)が船を漕いでいるとにわかに空模様が変わり、風が出て波が高くなった海上に西海に沈んだ平家の一門が姿を現す。中にも平知盛(後シテ)が長刀を振るって義経に襲いかかるが、弁慶が数珠をもんで法力にて祈ると次第に一党は姿を消してゆく。
前半の静御前との別れ、うって変わって後場の戦いを一曲に集約し、幽玄と壮大さを御覧頂きます。
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